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持続可能性に向け国際政治の枠組み変更を -科学界が根本的な国連改革を提起-

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公開日:2012.03.16

要約

要点

  • 世界のトップ研究者32人による環境ガバナンス研究成果をScience誌で発表
  • 21世紀の国際政治及び国際問題の本質的な変動を解明
  • 国連に「持続可能な開発理事会」の創設を提言

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

東京工業大学大学院社会理工学研究科の蟹江憲史准教授ら32人の国際共同研究グループは、持続可能性のための効果的なガバナンスは従来の認識を大きく変え、国際制度の抜本的改革が急務であるという包括的制度評価結果をまとめ、3月16日発行の米科学誌「サイエンス」誌上で発表した。

包括的制度評価の概要は①直面している持続可能性にかかわる課題が、地球そのものの変動を引き起こす新種の課題となった②国際政治のダイナミクスが、もはや国家のみではなく、多様な行為主体によって変動している③これらの現象に、第二次世界大戦直後の論理で構築された国連制度がもはや対応しきれていない―などの内容である。

具体的には21世紀型ガバナンスの構築へ向け、国連安全保障理事会に匹敵する持続可能な開発理事会の創設や国際合意形成促進のため、加重多数決制導入の必要性を提唱した。それは、1945年に国連が安全保障に対して理事会を設けたように、持続可能性へ向けた新たな立憲時代が訪れていることを示唆している。

グループは地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画(IHDP)地球システムガバナンス(Earth System Governance、ESG)プロジェクト(用語1)によって組織され、蟹江准教授はアジアから唯一人研究グループに選ばれている。

研究成果

現代社会の直面する持続可能性の課題は、従来の環境問題とは異なる性格を持つ。自然災害、食料、水、気候変動、生物多様性等の課題は総体として、地球システムそのものの変動をもたらしており、地球の耐えうる閾値に迫りつつある。

従来の国連を中心とした制度枠組みは、もはやこうした変動に対応しきれなくなっており、国際制度の抜本的改革なしには持続可能性の実現は不可能であることが、今回の国際共同研究で明らかとなった。本研究が重要なのは、抜本的改革のあるべき姿と道筋を、科学的知見に基づいて示したことにある。

ガバナンスの現状評価に基づき、研究グループは「国連持続可能な開発理事会」の創設を提唱している。1945年の最重要課題としての安全保障に対して安全保障理事会が創設されたように、現代社会の最重要課題の一つとしての持続可能性の課題に対して、国連憲章の改正につながるような抜本的改革が求められているという認識だ。新たなガバナンスの仕組みには、加重多数決制の導入、市民社会のより包括的参加、国連環境計画(UNEP)の強化といった要素が含まれる。

研究グループは、2012年の「リオ+20」(用語2)を契機として、持続可能性をめぐる国際ガバナンスは新たな立憲時代に入るべきであり、さもなければ手遅れになると結論付けている。

背景

2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)では主要課題の一つとして「持続可能な開発の制度枠組み」が取り上げられている。また、これに関連し、2012年3月末には主要な地球変動国際研究プログラム(IGBP、DIVERSITAS、IHDP、WCRP、Earth System Science Partnership(用語3))が合同で「Planet Under Pressure国際会議」を開催する。本成果は、持続可能性にかかる2012年の一連の政治的、科学的イベントを前に、国際研究グループが持続可能性のガバナンスの現状について行った、包括的評価研究の成果である。

研究の経緯

本研究はIHDPのコア・プロジェクトであるESGのイニシャティブによって組織された。プロジェクトチームは電子媒体でのコラボレーションのほか、2011年5月の地球システム統治に関するコロラド会議(Colorado Conference on Earth System Governance)での会合、同9月の箱根ビジョン作成会議(Hakone Vision Factory)及びこれに続く21世紀の持続可能性のための箱根ビジョン(”Towards A Charter Moment: Hakone Vision on Governance for Sustainability in the 21st Century”)の発表等を経て、今回のScience誌への発表に至った。

今後の展開

研究成果はPlanet Under Pressure会議にて発表されるほか、リオ+20成果文書への提案として提出されている。また、2013年1月28日~31日にはESGプロジェクトのアジアにおける最初の国際会議が東京にて開催される。

用語説明

  1. (1)

    IHDP-ESG:地球システムガバナンス(Earth System Governance、ESG)・プロジェクトは、地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画(IHDP)のコア・プロジェクト。2009年から10年にわたる計画となっている。人類と地球システムとの関係が急激かつ集中的に深まるなかで、人類はどのように自然環境や生態系に対峙し、管理しようとしているのか。地球システムと人類社会のインターフェースを司る制度、組織、政策といったガバナンスの諸問題が機能するためのメカニズム解明への手がかりとして、五つのAという分析課題と四つの分野横断的課題を掲げている。現在1700人を超える研究者がプロジェクトに関与している。

    http://www.earthsystemgovernance.org/outer

  2. (2)

    リオ+20:1992年にリオデジャネイロで開かれた環境と開発に関する国連会議(地球サミット)から20年を機に同地で今年6月20~22日に開かれる首脳会議。持続可能な開発および貧困撲滅に関連するグリーン経済と持続可能な開発のための制度的枠組みが中心テーマ。制度的枠組みでは国連の持続可能な開発委員会)改革や、UNEPを専門機関に格上げする案が提示されている。

  3. (3)

    IGBP:地球圏-生物圏国際協同研究計画

    DIVERSITAS: 生物多様性科学国際共同研究計画

    WCRP:世界気候研究計画

    Earth System Science Partnership:地球システム科学パートナーシップ

本件に関するお問い合せ先
蟹江 憲史
大学院社会理工学研究科 価値システム専攻 准教授
電話: 03-5734-2189   FAX: 03-5734-2189
E-mail: kanie@valdes.titech.ac.jp

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