東京工業大学大学院理工学研究科 材料工学専攻の鶴見敬章教授のグループは,コニカミノルタIJ(東京都日野市)の協力で,非鉛セラミック材料を使った インクジェット・プリンタ用ヘッドの試作に世界で初めて成功した.現在EUは,鉛などの有害物質の使用を禁じたRoHS指令を出しているが,圧電体として 代替物質がないPZTの使用は例外的に認めている.今回開発した新素材ヘッドはRoHS指令に完全に対応できるものとして注目される.
鶴見教授らが試作のため改良した素材は,圧電体として広く使われている鉛・ジルコニウム・チタンの3元素系素材である「PZT」(元素記号のPb,Zr ,Tiの頭文字を取ったもの)と同じ結晶構造(ペロブスカイト)をもち,各元素をカリウム,ナトリウム,ニオブに置き換えたもの で,KNN(K,Na,Nbの頭文字を取ったもの)と呼ばれている.KNNの研究は早くから進んでいるが,これまではPZTほどの良好な特性が得られな かった.
そこで同教授らは,KNNの電圧印加時のせん断変形時(シアー・モード,図1)に発生する力が大きいことに着目し,それをさら に強化することを考えた.以前に,非鉛セラミックス素材LF4(トヨタ中央研究所が開発)に強誘電体であるBiFeO3を加えて強い磁性を備えた素材を開 発しており,これを基に7~8種の元素を加えて組成を微調整していった.高温焼成時にカリウムとナトリウムが蒸発してしまうのを防ぐため,新たに密閉焼成 法も編み出したという.こうした改良の結果,KNN素材の特性をPZTの半分程度まで高めることに成功した.
ヘッドの試作では、コニカミノルタ IJと協力した.インクジェット・プリンターのヘッドの駆動方式はメーカーごとに違いがある.コニカミノルタIJはせん断変形を利用した駆動方式(ウォー ルベンド方式)を採用しており(図2),今回の素材とは最適な組み合わせだった.試作したヘッドでは,PZTの場合の2倍の電圧をかければ,十分な性能を 発揮することを確認した(図3).鶴見教授によれば「技術的にはさらに改良できる」という.
この研究の概要は2008年3月のセラミッ クス協会2008年年会(長岡科学技術大学で開催)で発表した.8月に台湾で開催される強誘電体国際会議(The 6th Asian Meeting on Ferroelectrics(AMF-6,http://140.124.60.216/)でも講演する.
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図1 今回着目したシアー・モード動作の様子(模式図) 図1の動画 |
図2 試作したインクジェット・プリンター用ヘッドの構造(模式図) |
図3 試作したプリンタ・ヘッドからインクジェットが吐出される様子 図3の動画 |
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