本学理工学研究科化学専攻の石谷治教授を中心とする研究グループは,太陽光を利用して炭酸ガス(二酸化炭素)を効率良く一酸化炭素に変える技術を開発し た.二酸化炭素は工業的に利用することが難しいのに対し,一酸化炭素は化学工業の原料となる.地球温暖化ガスである二酸化炭素を減らすとともに,化石燃料 の枯渇によるエネルギーや炭素資源不足を補うことを狙った研究の一環である.
50年後~100年後の人類社会を想定したとき,エネル ギー不足は極めて重大な問題である.エネルギー需要の増加分は化石燃料ではとうていまかないきれない.また地球温暖化の懸念から,化石燃料の使用量は増や したくない.地球温暖化のリスクを伴わずにエネルギー需要の増大に対応できそうな技術には原子力発電,風力発電,太陽光エネルギー利用などがある。しかし 原子力発電所の現在の増設ペースは需要の増大にまったく追い付かず,風力発電では、地球上で理論的に発生可能な電力自体が少ない.そこで太陽光の利用に期 待が集まっている.
太陽光エネルギーを工業的に利用可能なエネルギーに変換する方法はいくつか存在するが,石谷教授らのグループは二酸化炭素を 光触媒で還元し,工業的に利用しやすい材料に変えることが有望だと考え,研究開発に取り組んでいる(図1).二酸化炭素は地球温暖化の元凶とみなされてい る分子である.しかし、二酸化炭素を豊富な炭素資源としてとらえ、太陽光エネルギーを蓄積するリザーバーとして活用できれば,地球温暖化問題とエネルギー 問題の両方を一挙に解決する可能性が出てくる.
二酸化炭素を還元する光触媒としては過去,金属錯体の一種であるレニウム(Re)錯体が知られて いた.しかし還元反応の仕組みが解明されておらず,還元反応の効率が低かった.石谷教授らはこの反応機構を解明し,様々な工夫の積み重ねにより,量子効率 (フォトン(光子)1個を照射したときに何個の分子が反応するかの割合)を世界最高の0.59にまで高めた.
ただしレニウム錯体は可視光(波長 400nm~800nmの光)に対する吸収率が低い.0.59の量子効率が得られたのは,波長が450nm未満の光に対してだった.そこで太陽電池の増感 剤に使われている金属錯体のルテニウム(Ru)錯体と,レニウム錯体を組み合わせた分子(超分子型光触媒)によって可視光に対する吸収率を高めた(図 2).その結果,波長が500nm以上の可視光に対して0.21と高い量子効率を得ることができた.
今後は量子効率をさらに高めるとともに,水の酸化光触媒との連携や二酸化炭素からメタノールといった燃料を生成することにチャレンジする予定である.
図1 太陽エネルギーを使って人工的に光合成を起こす 二酸化炭素(CO2)を還元して炭素資源に変えることは,人工的に光合成を起こすことに相当する. |
図2 二つの光触媒を組み合わせる 二酸化炭素を還元するレニウム錯体と,可視光を良く吸収するルテニウム錯体を組み合わせた. |
図3 二酸化炭素を溶かした溶液から一酸化炭素のガスが発生している様子 気泡が数多く見えていることから,還元反応がきわめて活発に生じていることが分かる. 図3の動画 |
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