微細なシリコンCMOSトランジスタに必須のナノレベル極浅pn接合における高濃度の活性化したホウ素と不活性なホウ素の分離検出およびその深さ方向分 布の解明に成功した.シリコン表面近傍の高濃度のホウ素の化学結合状態とその量の軟X線光電子分光法による分析を,シリコンの極薄層を削る毎に繰り返す手 法を用いた.今後要求が高まる深さ10ナノメートル以下で作られる極浅で高い電気伝導性を有する接合形成プロセスの開発に必須の分析技術となると期待され る.
光電子分光によるホウ素の検出感度を高めるために,SPring-8/BL-27SUにおいて高輝度軟X線の励起による光電子分光を行った.その際,シリ コンのエッチングには,シリコン表面のオゾン雰囲気中常温における酸化と,その結果形成された酸化層の化学エッチングによる除去を繰り返す方法を使った. 各エッチング毎に行う光電子分光により,シリコン中のホウ素は熱処理後3種類の化学結合状態に分かれ,それぞれが表面から10ナノメートルの範囲で全く異 なる濃度分布を示すことがわかった.これらとホール測定によるキャリア濃度分布との比較から,活性化したホウ素が1種類,残りの2種類が不活性なホウ素と 同定できた.
大規模集積回路(LSI)を構成するシリコンの極微細CMOSトランジスタでは,シリコン表面に10ナノメートル以下の極めて浅いpn接合を形成する技術 が求められている.ここでは,表面からのドーピング層を浅くすることに加えて,導入した不純物を電気的に高効率に活性化して低いシート抵抗を得ることも必 要である.しかし,そのための熱処理により不純物が拡散してドーピング層が深くなる問題がある.そこで,高濃度不純物の分布を変えることなく活性化できる 不純物導入プロセスと熱処理プロセスの開発が急務となっている.この研究開発には,活性な不純物と不活性な不純物を分離し,かつ,その深さ方向空間分布を 検出できる分析技術が必要となる(図1).
この度,このようなナノレベル極浅pn接合における高濃度の活性化した不純物と不活性な不純物の分離検出およびその深さ方向分布の解明に,東京工業大学の 筒井一生准教授・岩井洋教授・服部健雄客員教授らのグループが成功した.この深さ方向分布の解明に用いた軟X線光電子分光技術は,同グループと武蔵工業大 学の野平博司准教授らのグループとの共同開発によるもので,SPring-8(財団法人高輝度光科学研究センター)の池永英司研究員の協力を得て実施され た.また,東京工業大学と産学共同研究を行っている(株)ユー・ジェー・ティー・ラボから最先端のプラズマドーピング法によって製作された試料の提供を受 けた.
【内容】
今回開発した手法は,Si表面近傍の高濃度のホウ素や砒素などの不純物の化学結合状態とその量の軟X線光電子分光法による非破壊分析を,同グループが開発した方法を用いてシリコン層を0.5ナノメートル毎に段階的に削った試料に対して行うものである(図2).
極浅接合のうち,表面からホウ素を導入して表面側にp型層を作る構造の形成には最高度のプロセス技術が必要となる.そこで,同グループはプラズマドーピン グ法によるホウ素のドープ層を検討対象とした.各種不純物の中でも光電子分光による検出が最も難しいホウ素の検出感度を高めるために,SPring-8に おいて高輝度軟X線の励起による光電子分光を行った.その際,シリコンのエッチングには,シリコン表面のオゾン雰囲気中常温における酸化と,その結果形成 された酸化層の化学エッチングによる除去を繰り返す方法を使った.この方法は,不純物の種類や濃度にほとんど影響されずに,低温で不純物の析出や再分布を 抑えながら各1回の酸化とエッチングによりシリコン層を約0.5ナノメートル剥離できるので,極浅接合の評価に適している.
各エッチング毎に行う光電子分光により,シリコン中のホウ素は熱処理後3種類の化学結合状態に分かれ(図3),それぞれが表面から10ナノメートルの範囲 で全く異なる濃度分布を示すことがわかった(図4(a)).これらとホール測定によるキャリア濃度分布との比較から,活性化したホウ素が1種類,残りの2 種類が不活性なホウ素と同定できた(図4(b)(c)).不活性なホウ素が形成する様々なクラスターの結合エネルギーの第一原理計算による結果と実験値と の比較からクラスターの構造の解明が期待される.今回開発した方法を駆使して極浅領域における活性なホウ素濃度を高められれば,微細CMOSのさらなる高 性能化が達成でき,将来の高機能・低消費電力LSIの実現につながると期待される.
この成果は,9月15日から英国エジンバラで開催される欧州固体デバイス研究会議(ESSDERC2008)で報告された.
図1 シリコン(Si)基板表面に極浅のpn接合を形成するプロセスの概念,および形成された接合内部の不純物の状態の概念.
Si中に導入された高濃度の不純物を限られた熱処理で活性化させなければいけない.このとき,最も表面近くの不純物原子の濃度は非常に高いが全てが活性化 しているわけではなく,クラスター構造などをとって不活性な状態で残っていると考えられている.ドープ層(ここではp層)のシート抵抗を下げるためには, これらクラスターなどの生成を抑制し,活性な不純物の濃度を高めなければいけない.その方法を開発するには,まず,表面近くの極めて高濃度の領域で不純物 がどのような状態でどのように分布しているかを知ることが非常に重要である.本研究の重要な成果は,この点で知見を大きく進ませたことにある.
図2 測定方法の概念図
基板表面から段階的にエッチングをした試料について軟X線光電子分光測定を行い,各エッチング段階でのボロン原子の化学結合状態と濃度を解析し,最終的に それらの深さ方向分布の情報を得る.エッチングは,オゾンによる表面酸化とできた酸化層を化学エッチング除去する工程の組み合わせで最表面のSi層を削る 方法であり,これを繰り返すことで目的の深さまでエッチングする.1回で約0.5ナノメートル程度削れる.
図3 エッチング深さごとの試料におけるホウ素からの光電子(B 1s)スペクトルをエッチング深さの順に縦に並べた図
図2の方法で測定した結果得られた実験データである.Si中のホウ素が3つの異なる結合エネルギー,すなわち異なる化学結合状態で存在することが分離して 観測されたことが重要.分離された個々のスペクトル(BEH? BEM? BELとラベルを付けたものなど)の強度はそれぞれの状態のホウ素の濃度に対応している.
このような情報を,表面から削る深さの変化に沿ってみてゆくと,それぞれのホウ素が深さ方向にどのように分布しているかを知ることができる.
図4 分離観測されたホウ素の深さ方向の分布と,そこから各スペクトルに対応するホウ素の活性・不活性およびクラスター化を決めた方法の説明.
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