本学フロンティア創造共同研究センター 細野秀雄教授,独立行政法人理化学研究所河野低温物理研究室 河野公俊主任研究員らの研究グループは,石灰とアルミナから構成される化合物12CaO・7Al2O3(C12A7)が,超電導を示すことを発見した.
石灰(カルシウムと酸素の化合物.化学式CaO)と酸化アルミニウム(アルミニウムと酸素の化合物.Al2O3)は,教科書類にも記載されているように,電気を流さない代表的な絶縁体である.これらの複合酸化物である12CaO・7Al2O3(以 下C12A7)も良質な絶縁体であり,また,アルミナセメントの構成成分として広く使用されている.C12A7結晶はナノポーラス構造をとり(図1),直 径0.5nmの籠の中に,酸素イオンが包接されている.研究グループでは,これまでに,籠中の酸素イオンをすべて電子で置き換えることにより,室温・大気 中で安定な,C12A7エレクトライド(エレクトライド:電子が負イオンとして振舞うエキゾチックな化合物)を実現し,室温付近では,金属的な電気伝導を 示すことを見出してきた.今回,C12A7エレクトライドが,低温(約0.4K)において,電気抵抗がゼロとなる超電導状態に転移することを発見した.
今回の発見は,ありふれた元素からできた,電気を全く通さないと信じられてきた物質でも,ナノの構造をうまく利用すれば,超電導体に変えることが出来るこ とを示したものである.同時に,エレクトライド化合物では,初めての超電導の発見であり,新規な超電導体化合物の探索に,新しい化合物群を提示したと言え よう.
C12A7エレクトライドでは,電子は,籠の電子状態から作られる伝導帯(電子の通り道)を流れている.すなわち,従来の超電導金属とは 異なり,結晶中のナノ空間を流れるs電子(球状電荷分布をもつ電子)による超電導であり,今回の発見が,超電導発生機構の解明に新たな知見を与えるものと 期待される.
なお,本研究成果は,文部科学省科学研究費 学術創成研究費の補助を受け,東京工業大学フロンティア創造共同研究センター 細野秀雄教授,同大学応用セラミック研究所 川路均准教授,独立行政法人理化学研究所河野低温物理研究室 河野公俊主任研究員の共同研究によるもので, 米国化学会誌J.American Chemical Societyに「Superconductivity in an inorganic Electride 12CaO・7Al2O3:e-」というタイトルで速報として掲載された.
![]() |
![]() |
![]() |
図1.C12A7の結晶構造.ナノサイズの籠(0.5nm)から構成されている.立方体が単位格子(繰り返しの最小単位).単位格子には12個の籠があり,そのうちの2個に酸素イオンが入っている. | 図2.C12A7エレクトライド単結晶と薄膜の抵抗率の温度及び外部磁場依存性. | 図3.C12A7エレクトライド単結晶(試料AとB)の温度に対する帯磁率変化. |
本件に関するお問い合せ先 |
|
---|---|
TEL | |
FAX | |
URL | http://lucid.msl.titech.ac.jp/%7Ewww/ |
*6年以上前の研究成果は検索してください