本学大学院理工学研究科の田中順三教授と阿部正紀教授,物質・材料研究機構生体材料センターの生駒俊之主任研究員を中心とする研究グループは,ガンの治 療に有効で生体との親和性が高い微粒子を実現するための基礎実験に成功した.ガンの治療方法の一つであるハイパサーミア(温熱療法)を,より効率的に実現 できる可能性がある.
ハイパサーミアは,ガン細胞組織に電磁波を照射して加熱し,ガン細胞を殺傷する治療方法である.ガン細胞が正常細 胞に比べると高温に弱いことを利用した.この治療方法を効率的に実行する手法として,「マグネタイト(酸化鉄)」の利用が考えられている.磁性体であるマ グネタイトは,高周波磁界による加熱作用が生体(たんぱく質)に比べるとはるかに大きい.マグネタイトの微粒子をガン細胞の組織あるいはその周辺に埋め込 めば,ガン細胞を効果的に加熱できるようになる.
ただしマグネタイトは,人体との親和性が低い.そのままでは,生体に埋め込んだ初期に炎症が起きて治癒を遅らす問題が考えられている.
この問題の解決手法として田中教授らの研究グループは,無機材料の「ハイドロキシアパタイト(HAp)」で,マグネタイトの微粒子を覆うことを考えた.ハ イドロキシアパタイトは歯および骨の構成材料であり,人体にとって安全であり,人体に埋め込むと骨と一体化してくれるという特徴がある.生体との親和性が 高い.
しかし,ハイドロキシアパタイトとマグネタイトは接着しにくい.接着には,何らかの工夫が必要である.田中教授らは,日本の沿岸に広く生 息する貝である,「ひざら貝(火皿貝)」に着目した.ひざら貝の歯はマグネタイトで出来ており,しかもハイドロキシアパタイトの層から生えているという特 徴がある.マグネタイトとハイドロキシアパタイトという全く違う2つの材料の間には,水酸化鉱物の「レピドクロサイト(γ-FeOOH)」が存在してい る.
そこで,ガラス基板上にマグネタイト層とレピドクロサイト層を形成し,ハイドロキシアパタイトを積層したところ,ハイドロキシアパタイトが付着することを確認できた.
今後はマグネタイトをコアとし,レピドクロサイト層を中間層,ハイドロキシアパタイトを表面層とする粒子を作成するとともに,再現性や制御性などを高めていく予定である.
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図1 ひざら貝の歯の構造 | 図2 レピドクロサイト(γ-FeOOH)層の表面に析出したハイドロキシアパタイト(HAp) | 図3 マグネタイト(Fe3O4)をコアとし,レピドクロサイト(γ-FeOOH)層を中間層,ハイドロキシアパタイト(HAp)を表面層とする粒子の模式図.大きさはミクロンオーダー. |
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