安全な次世代大型リチウム電池の長寿命化に貢献
- 次世代全固体型リチウムポリマー電池の充放電解析 -
<大学院理工学研究科 名誉教授 脇原 將孝>
<大学院理工学研究科 特任准教授 黒木 重樹>
<大学院理工学研究科 助教 中山 将伸>
東京工業大学理工学研究科の脇原將孝名誉教授、黒木重樹特任准教授、中山将伸助教らは、リチウムイオン電池(用語1)の次世代型として期待される全固体型リチウムポリマー電池(用語2)の繰り返し充放電に伴う容量劣化が、電極と電解質の界面で生じる電解塩(用語3)の分解反応が原因で起こっていることを突き止めた。全固体型リチウムポリマー電池は安全性が高く大型化が可能なため、電気自動車などへの適用が期待されているが、寿命が課題だった。今回の成果は長寿命化の実現につながるもので、実用的な電池の開発に威力を発揮する。
東工大の研究グループは実際に全固体型リチウムポリマー電池を製作。電気化学特性、リチウムイオンと対イオン(用語3)の電解質内移動解析(図1)を核磁気共鳴法や電子顕微鏡で観察(図2)し電極上での対イオン分解反応を分析して寿命を制約する要因を突き止めた。研究は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)産業技術研究助成事業によるもの。成果は2月18日付(日本時間:2月19日)のドイツの科学雑誌アドバンスト・ファンクショナル・マテリアルズ(電子版)に掲載された。
●研究の背景
リチウムイオン電池は二次電池の中で最高のエネルギー密度があるため、携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器に広く使用されている。しかし可燃性の有機電解液を用いており、その危険性のため大型化は困難とされていた。そのため、有機電解液を難燃性のポリマー電解質に置き換えた全固体型リチウムポリマー電池が提案されている。
これまでの研究では、ポリマー電解質のリチウムイオン伝導性が低いことを改善するため、さまざまな材料のイオン伝導特性が精力的に研究されてきた。実際に、その研究過程でイオン伝導に優れた材料も多数報告されている。しかし、このような要素材料の研究が進捗してきたのに対して、本研究でターゲットとした、実際に電極と電解質を組み合わせて電池を作製して充放電特性を調べるような研究例は少ない。
また従来、電池の反応場である固体(電極)-液体(電解質)界面とは異なり、全固体型リチウムポリマー電池では固体(電極)-固体(電解質)界面が電気化学反応の反応場となる。したがって、基礎的研究の観点からも新しい固体-固体界面反応の知見を得ることは有意義である。
●本成果の意義
今回、東工大グループは電気化学特性、リチウムイオンと対イオンの電解質内移動解析を核磁気共鳴法や電子顕微鏡で観察し、電極上での対イオン分解反応を観察することに成功した。その結果、次世代全固体型リチウムポリマー電池の繰り返し充放電に伴う容量劣化が電極上で生じる電解塩の分解反応と関連していることを突き止めた。研究例の少ない次世代全固体型リチウムポリマー電池の長寿命化を達成するために、重要な役割を果たすものと期待される。
安全性に優れた次世代全固体型リチウムポリマー電池が実用化すれば、大型化が可能になる。将来はプラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車、あるいは昼夜間電力平準化用の定置電源などに活用することができ、人類が直面する環境・エネルギー問題の改善に貢献することができる。
●今回の研究内容
今回の研究では、引火点が高温で安全と考えられる可塑剤ホウ酸エステル(日油株式会社提供)とアルミン酸エステル(日本乳化剤株式会社提供)を添加して高いイオン伝導度を実現したポリマー電解質を使用した。また電極には今後、大型電池を中心に導入が考えられる次世代オリビン型リン酸鉄(用語4)を採用して全固体型リチウムポリマー電池を作製し、充放電特性を計測した。
特に、交流インピーダンス法、核磁気共鳴分光法、電子顕微鏡の技術を複合して、電池内で移動するリチウムイオンと対イオンの動きに注目した。その結果、作製した全固体型リチウムポリマー電池で見られる容量劣化が電解質と電極の界面での対イオンの分解に由来することを特定することに成功した。
この成果は、安全と大型化をキーワードとした次世代全固体型リチウムポリマー電池の材料とデバイス設計の指針を示すものである。同時に、基礎研究としても固体(電極)-固体(電解質)界面という新しい反応場の知見を広げ、さらにその研究技法を提供することができた。
【用語説明】
用語1:リチウムイオン電池
1990年代にソニーなどによって商品化された、充電によって繰り返し使用可能な電池(二次電池)。現在、携帯電子機器(携帯電話、ノートパソコンなど)を中心に広く実用化されている。従来の二次電池(鉛蓄、ニッケル水素など)に比べて発生電圧が3.6V以上と高く、高エネルギー密度を有する。しかし、高動作電圧のため水溶液系の電解液を用いることができず、可燃性の有機電解液を用いているため、安全性の向上が求められている。
用語2:全固体型リチウムポリマー電池
リチウムイオン電池の電解質として、難燃性のポリマー電解質を用いたもの。有機電解液に比べ、発火等のリスクが圧倒的に低下すると考えられている。そのため、大型化用途(電気自動車、電力貯蔵)に対応すると期待されている。また、ポリマー(固体)を用いることで、フレキシブルな電池が製造可能であると考えられている。液体に比べて、固体のポリマー電解質は、その内部でのリチウムイオン伝導が不十分であり、その改善を試みた研究が全世界で展開されている。
なお、現在、すでに市販化されているリチウムポリマー電池と呼ばれている電池は、電解質として可燃性の有機電解液をポリマーにしみ込ませたゲル電解質を使用しており、発火等に対する不安は依然として残っている。ここでは、従来の有機電解液を使用していないことを明らかにするため、「全固体型」リチウムポリマー電池と表記している。
用語3:電解塩・対イオン
電解質にリチウムイオン伝導性を付与するために、電解質中に添加してリチウムイオンを溶かす薬品を電解塩という。電解塩は、電解質中で溶けると正電荷を有するリチウムイオンと負電荷を有する対イオンに分離する。対イオンは電池の充放電反応に直接寄与しないため、リチウムイオンの正味の伝導性を高めることが重要となる。
用語4:次世代オリビン型リン酸鉄
現在、リチウムイオン電池の正極材料には希少金属であるコバルトを含有する酸化物が用いられているが、最近の研究によって資源的に豊富な鉄を含有する酸化物が新たな代替材料として注目されている。本研究ではその中でもリン酸塩であるオリビン型結晶構造を有したLiFePO4を正極材料として電池特性の検証を行っている。
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