本学総合理工学研究科人間環境システム専攻の翠川三郎教授を中心とする研究グループは,超高層ビルディングを「長周期地震動」が襲ったときに高層階のオ フィスがどのように影響を受けるかをシミュレーションし,コンピュータグラフィックス(CG)アニメーションで分かりやすく表現してみせた.超高層ビル ディングの高層階で働いている人々やビル管理者などに「長周期地震動」の怖さを直観的に認識してもらえる,非常に効果的なツールである.
「長周期地震動」とは地震によって発生する,周期が数秒前後の長い揺れを指す.長周期地震動は平野部で発生することが多い.平野部には堆積層と呼ばれる 軟らかい地盤が表面付近に厚く存在しており,地下深くの岩盤と地上表面との間で地震波が増幅されるため,周期が長く振幅の大きな揺れが発生するとされてい る.
長周期地震動は,地震の一般的なイメージとはかなり違った振るまいを示す.まず,震源との距離が長いからといって揺れが小さくなるわけではない.震源近 くの平野部ではあまり揺れず,震源から数百キロメートルも離れた遠くの平野部で大きく揺れることがある.また,揺れの続く時間が長い.数分も揺れが続くこ とがある.
さらに厄介なのは,超高層ビルディング(超高層建築物)が長周期地震動に対して弱いことだ.超高層ビルディングは固有振動の周期を数秒と長く取ることで 地震のエネルギーを逃がすように設計されている.短周期の通常の地震動に対しては非常に有効な対策である.ところが長周期地震動に対しては超高層ビルディ ングの固有振動と地震動の周期が近く,共振と呼ばれる振動の増幅が起こることがある.共振が発生すると地面の揺れの数倍の振幅の揺れが高層階で発生し,建 物内は危険な状態に曝される.
日本の超高層ビルディングは,大地震に耐える設計手法が確立したために建築されてきたという経緯があり,一般的に は地震に対して安全だとのイメージがある.しかし長周期地震動の存在が明らかになってきた最近では,安全イメージをいささか修正しなければならない.そこ で,超高層ビルディングのオフィスや居住スペースなどが長周期地震動によってどのような影響を受けるかを分かりやすく伝える手段が望まれていた.
翠川三郎教授らの研究グループはCGアニメーションを駆使することで,高層階のオフィスで机や椅子,コピー機などが長周期地震動に対してどのように振る舞うかを直観的に理解できるようにした.
まず,長周期地震動を再現する振動台(図1)に事務机や椅子(キャスター付き),キャスター付き椅子と事務机を接続した状態(椅子に座った人が机にしがみ ついた状態を想定),収納棚,キャスター付き木箱(コピー機を想定)などを載せ,わざと揺らしてみた.そして揺れによって物体が移動したり,転倒したりす る様子を測定した(図2).
次に測定結果をモデルに組み込んだシミュレーションを実行し,アニメーションで事務机などが動く様子を表示してみせ た(図3).例えば30階建ての超高層ビルディングの25階を想定してシミュレーションしたところ,揺れが80秒と長く続き,椅子に座った人が机にしがみ ついた状態では揺れによる移動距離が1メートル以上に達することが分かった.移動速度は最大で2メートル/秒とかなり高速で,オフィス内の人が怪我をする 危険性もある.
今後は超高層マンションのキッチンなどにもこのシミュレーション技術を適用していく計画である.
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