本学フロンティア研究センターの腰原伸也教授,中村一隆准教授らのグループは,大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の一柳光平博 士研究員,足立伸一准教授らのグループと共同で,単発のパルスレーザー照射により半導体(硫化カドミウム:CdS)単結晶が圧縮・破壊される過程(衝撃圧 縮過程)の構造変化を,短パルスX線を用い100億分の1秒(100ピコ秒)の時間分解能で撮影することに世界で初めて成功した. CdS単結晶試料に金属膜を蒸着し,ナノ秒高強度レーザーをパルス照射して,金属膜が蒸発する際に発生する圧力によって試料が圧縮・破壊されるプロセス を,ほぼ同時にX線パルスを照射して観測したもので,結果は結晶を構成する原子のX線回折像として得られる.この研究は,独立行政法人科学技術振興機構 (JST)戦略的創造研究推進事業ERATO型研究の研究領域「腰原非平衡ダイナミクスプロジェクト」の一環として進められたもので, 米国の科学雑誌「Applied Physics Letters」オンライン版に12月7日付で掲載された.
材料の破壊現象についての高速=高い時間分解能での知見は,高強度のレーザーによる材料加工や,放射線損傷に強い材料の開発に重要な役割を果た すと期待されている.今回の方法では,1度の実験で試料は破壊されてしまうが,複数の試料を使ってパルスレーザーとX線の照射タイミングをずらしながら繰 り返し測定を行い,得られた画像を連続的につなぐことで,結晶がパルスレーザー照射により瞬間的に圧縮され,破壊されてゆく様子を再現できる.
パルスレーザー照射による試料の圧縮・破壊の過程では,照射された試料表面でまず衝撃波が発生し,衝撃波が試料の中を超音速で進行するのに伴って試料が 圧縮され,最終的に破壊に至る.この過程での物質中の原子の位置の変位を調べるには,X線回折が最も有効だが,瞬間的に進む現象の測定には強力なX線を短 時間だけ照射する必要があるため,一般的なX線放射源は適さない.そこで高エネルギー加速器研究機構(KEK)の大強度放射光施設(PF-AR)の時間分 解X線ビームラインBL-NW14Aを使った. この施設は様々なX線解析法による物質のダイナミクス研究を目指して,KEKとJSTとの共同研究により建設されたものである.
今回の 実験では図1のように装置を構成して,高強度ナノ秒YAGレーザーパルスと100ピコ秒幅のX線パルスを試料表面に照射し,その衝撃圧縮過程を測定した. 試料は1回のパルスレーザー照射で完全に破壊されるが,BL-NW14Aで放射される大強度白色X線パルスは,1パルス当たり約109個のX線フォトンを含んでおり,1発のX線パルスで非常に明瞭なX線回折像を記録できる.
図2はレーザーパルスとX線パルスの入射のタイミングを系統的にずらしながら測定した複数の回折像をつなげて時間変化を示したもの.この結果から,パルス レーザー照射による衝撃波は試料中を毎秒4.2キロメートル(マッハ12)という超音速で進行すること,衝撃圧縮によって試料が1軸方向(レーザーの進行 方向)にのみ最大4.4%圧縮されており,その衝撃圧力は最大3.92GPa(約4万気圧)に達することが明らかとなった.さらに詳細な解析から,衝撃圧 力波が試料の裏面に当たって反射する様子や,最大圧力に到達した時には単結晶の圧力相転移が起こる寸前の中間状態になっていること,いくつかの圧縮相が交 じり合って時々刻々と変化していることなど,衝撃圧縮過程の詳細なメカニズムが分かった.
腰原教授によれば,今回の技術を基礎にし,より新しい放射光源を使うことで,さらに高い時間分解能での測定も可能になるという.
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