本学独立型研究ポジションであるグローバルエッジ研究院竹内純テニュア・トラック助教は、サンフランシスコグラッドストーン研究所Bruenau准教授と の共同研究により、哺乳類心筋分化誘導のマスター因子を発見した。この研究成果は、現在ホットなES/iPS研究において大きな橋渡しになると期待され、 さらには深刻な心疾患患者を救う、創薬、移植技術への向上につながることが期待されるものである。本研究表題は、「Directed transdifferentiation of mouse mesoderm to heart tissue by defined factors」で、世界トップの国際科学論文誌「Nature」に4月27日付けでonline掲載される。また同日、毎日新聞朝刊全国版においても掲 載された。
=背景=
将来の臨床応用を目指し再生医療に用いる為には、未分化細胞やES/iPS細胞を、「単一であり、心筋以外には分化しない」という大きな課題を克服する必 要がある。従来の分化方法では、低効率での心誘導は引き起こせるが同時に多細胞(神経、骨格筋、平滑筋)にも分化してしまう欠点がある。また、未分化細 胞、ES細胞、そしてiPS細胞をそのまま移植してもほとんどが移植された環境下では未分化状態で留まっていたり癌化するという報告もあり、上記課題の克 服には程遠く、ヒト体内に移植するにはリスクが高い状況である。よって、哺乳類心筋マスター因子の同定が重要なテーマであるが、現在のところその特定には 至っていなかった。
筆者は長年、エピジェネテック因子の一つであるクロマチンリモデリング因子に着目し、心臓発生、心疾患における機能を研究してきた (Lickert&Takeuchi? Nature 2004? Takeuchi? PNAS 2007? Zhu? PNAS 2008)。クロマチンリモデリング複合体(図1)は哺乳類において大きく3種類存在するが、生体内における機能はようやく最近になって解析なされはじめ た。
=研究成果と発展性=
今回、マウス胚を用いた遺伝子強制発現系において、特定の遺伝子導入(3遺伝子:クロマチン因子の一つBaf60cと心臓特異的転写因子Gata4、 Tbx5を共強制発現)させることにより、哺乳類胚において拍動する単一心筋を誘導する事に成功した。(図2)(Takeuchi & Bruneau Nature 2009:advanced online publication on 26th April. 2009)。さらに同論文内にて、心筋分化誘導過程において特定領域におけるクロマチン構造の変化が起っており、それによってGata4、Tbx5などの 心臓転写因子が下流制御遺伝子のプロモーター上にリクルートされてくることも生体内で初めて証明した。(図3)
この一連の研究は、特定細胞の分化にはエピジェネテックシグナルの発現状態や転写因子―クロマチン因子の共同複合体がマスター因子として機能していること を明らかにしており、ES/iPS細胞を用いたこれからの再生医学研究に大きく寄与する発見である。今後、多くの研究機関においてES/iPS細胞を用い た実証研究が進められていくであろう。
=謝辞=
なお本研究は,HFSP CDA(ヒューマンフロンテイアサイエンスプログラムキャリアでヴェロップメントアワード)、平成19年度三菱財団自然科学系研究助成、平成20年度武田 科学振興財団報彰研究助成の一環として実施されている。また、グローバルエッジ研究院事務スタッフ、理事に深謝致します。そして多くの雑念にも動じず高い 志を持って集まってくれた竹内研究室メンバー(小柴和子さん、杉崎弘江さん、堺康行くん、加藤悦男くん、笹岡陽介くん)に感謝致します。
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