本学理工学研究科材料工学専攻の岡田清教授,亀島欣一助教を中心とする研究グループは,飲み薬を胃で溶かさずに,十二指腸に入ってから薬剤を徐々に腸内 に放出する技術を開発した(図1).必要な薬剤を必要な部位だけに送付して吸収させるシステム(DDS:Drug Delivery Sytem)の研究の一環である.DDSを使うと必要な薬剤の分量が減るので,患者が薬剤を飲む回数や1回当たりの投与量などを節約できる.
DDSでは例えば,薬剤を人体に安全な保護膜で包む.今回の研究では,粘土材料のハイドロタルサイトと,オリーブオイルの主成分であるオレイン酸を使って薬剤をくるんだ.
ハイドロタルサイトは層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)の一種で,金属イオンを含む層状の水酸基が積層した構造である.層間に陰イオンを挟むことで電気的な中性を保つ.すなわち,薬剤をマ イナスのイオン価を有する構造に変えれば,ハイドロタルサイトの層間に取り込める.
ただしハイドロタルサイトは酸に弱いので,別の材料で胃酸か ら保護する必要がある.今回はオレイン酸をハイドロタルサイトの周囲に吸着させ,保護膜とした.具体的にはオレイン酸ナトリウムを,ハイドロタルサイトを 含む水溶液に溶かす.するとオレイン酸ナトリウムは,陽イオンのナトリウムと陰イオンのオレイン酸に分解する.陰イオンであるオレイン酸がハイドロタルサ イトに吸着され,保護膜となる.
実験では,胃酸を模擬した溶液として塩酸を使い,オレイン酸の有無でハイドロタルサイト中の金属イオンがどの程 度溶け出すかを調べた.オレイン酸で保護していないハイドロタルサイトからは,6時間経過後にアルミニウムが40%,マグネシウムが80%近く溶けだし た.それがオレイン酸を導入した場合は,溶け出す分量が約16分の1と劇的に減少した(図2).
食物は胃を通過すると,十二指腸に入る前に胆汁 に曝される.胆汁はアルカリ性なので,胃酸を中和する.オレイン酸などの脂肪酸は胆汁によって中和され,水に溶けていく.この結果,十二指腸から小腸へと 移動する間に,ハイドロタルサイト内の薬剤が腸内へと徐々に溶け出すことになる.
現在はハイドロタルサイトにビタミンCを取り込み,塩酸内で2時間経過後も30%程度が残ることを確かめたところ.今後は医薬系の研究者と共同で,薬剤を使った実験などに取り組む予定である.
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図1 飲み薬を胃で溶かさずに,十二指腸に入ってから薬剤を徐々に腸内に放出する仕組み 層状複水酸化物(LDH)とオレイン酸によって薬剤を包み込み,胃の内部で溶け出すのを防ぐ. |
図2 オレイン酸の有無による溶け方の違い 胃酸を模擬した塩酸に試料を投入した.グラフで「複合材料」とあるのが,オレイン酸を吸着させた材料.塩酸にほとんど溶けなくなっていることが分かる. |
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