本学大学院理工学研究科 物質科学専攻の柴田修一教授,矢野哲司准教授のグループは,同時に多波長のレーザー発振が可能な微小球レーザー発振器の開発に 成功した.従来の光通信に使うレーザーでは基本的に単一波長(単一モード)での発振である.200波から300波の多波長のレーザーを使う波長多重方式 (WDM)が主流の現在の光通信システムでは,波長の違うレーザーを多数用意する必要があり,装置が大型化する原因となっていた.今回開発した微小球レー ザー発振器を使えば,単一で多波長のレーザー発振が可能なため,著しく小型化できる.
微小球をレーザー発振に使うアイデアは1960年代からあるが,実現のネックになっていたのは,発振を引き起こす基になる光(励起光)をどうやって球の中に入射するか,発振を制御するかということだった.
微小球に励起光を導入させる方法はいくつか提案されているが,柴田教授らは,実用に近い手法を考案し試みている.溶融したガラスで作った直径数10μmの ガラス微小球にコーティングし,その一部に「テラス」と呼ぶ台を形成,その端から励起光を入射させる方法を考案した(図1).このテラス微小球はラマン レーザーとして発振する.
世界的には柴田教授らの方法に先立ち,そもそも髪の毛程に細い光ファイバーの一部をさらに数μmの太さになる よう引き伸ばした「テーパーファイバー」を使う方法が知られていた.これは細い部分の表面から数百nm離れた位置に微小球を配置する必要がある.テーパー ファイバーそのものの扱いも注意する必要があり,研究室レベルではともかく,実用化は難しかった.
そこで柴田教授らは,光ファイバーを曲げて, その部分を研磨してコア部分を露出させ,その上に500nmの厚さの薄膜を付け(薄膜部が図1のテラス構造に相当し,「光ファイバーカップラ」と呼ぶ), さらにその上に微小球を固定するという方法を考案した(図2).10nmの精度で膜厚を制御するためにゾル-ゲル法に基づくコーティング技術を開発し,さ らに研磨する深さを精度よく測定するためには,研磨した部分の表面積を測定してその値を基に計算するという工夫を凝らした.その結果,光結合効率は,入射 光強度の約10%であるが,実用的に優れており,発振しきい値は数mWと? はるかに扱いやすい発光素子ができあがった.微小球が発生するレーザー光では,球内に複数の発振モードが共存するために,多数の発振ピークを持つ(図 3).数百波の多波長レーザーとして機能する原理はここにある.
今回の成果は,米Accounts of Chemical Research/ Vol.40? No.9? 2007に発表した論文「Sol-Gel-Derived Spheres for Spherical Microcavity」をさらに発展させたもの.今後はレーザー光を効率よく取り出すための改良を進める.柴田教授によれば,「現在光ファイバーででき る機能(発振や増幅)をすべて微小球でもできるようにしたい」という.
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図1 多波長レーザーの発振に使う,テラス微小球の電子顕微鏡写真 | 図2 コアを露出させた光ファイバー上に超半球を固定する方法 | 図3 試作した発光素子が発生するレーザーのスペクトル例 |
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