本学統合研究院の益一哉教授と岡田健一助手らの研究グループは,次世代のマルチバンド無線端末を低コスト化する基幹部品を開発した.数多くの無線周波数に対応する低コストの高周波無線送受信モジュールを目標とする開発プロジェクトの一環である.
現在,携帯電話機や無線LAN,短距離無線通信などでは様々な無線通信規格が商用化されている.これらの通信規格は扱う周波数や変復調方式が異なるため, 各通信規格の技術仕様に合わせた高周波無線送受信モジュールを個別に用意する必要がある.例えばGSMとWCDMAの両方式に対応したマルチバンドの携帯 電話機は,2種類の無線周波数と2種類の変復調方式に対応するため,合計で4種類の送受信回路を搭載している.
今後,携帯電話機などの無線端末が対応する通信規格はさらに増える可能性がある.そうなった場合,さらに多くの送受信回路を搭載することになり,無線端末の小型化を阻害するとともに,コストを増大させてしまう.
そこで一つの無線送受信回路で複数の周波数に対応させ,小型化と低コスト化を容易にすることが考えられている.益一哉教授と岡田健一助手らの研究グループ は,無線送受信回路でもRFフロントエンドと呼ばれているアンテナ側の高周波回路で,いくつもの周波数に対応させることを目的に研究を進めてきた.
RFフロントエンドは,電圧制御の発振器(VCO),低雑音増幅器(LNA),周波数混合器(MIX)といった回路部品で構成される.これまでのRFフロ ントエンドは,特定の周波数で最大の性能を出せるように,これらの回路部品を設計してきた.これに対して益一哉教授らのグループは,回路部品の特性を調整 することで複数の周波数に対応する,再構成可能なRF回路(リコンフィギュラブルRF回路)を考案した(図1).このリコンフィギュラブルRF回路は複数 の無線通信規格に対して個別に回路を用意する必要がないので,無線端末のコストを大きく下げるとともに,大幅な小型化を実現できる.
今回はリコ ンフィギュラブルRF回路の基幹部品であるVCOをマルチバンド向けに設計,試作し,実用的な性能を得た.VCOは電圧で発振周波数を制御する回路である が,既存のVCOでは発振周波数の最低値と最高値の違いが広くても2倍程度しかなかった.これではマルチバンドには向かない.これに対して益一哉教授らが 開発したVCOは,発振周波数の範囲が0.98GHz~6.6GHzと広い.最低周波数と最高周波数の比率は6倍を超える.
開発したVCOは, 基本波を発振するVCO(原発VCO)に,発振周波数範囲を拡張する回路を付加した構成である.基本波から,2倍周波数,1.5倍周波数,4分の3周波 数,2分の1周波数を発生させる.基本波そのものは2GHz~3GHzの範囲で発振周波数を制御できるので,例えば2倍周波数の信号では 4GHz~6GHzの範囲で発振周波数を変化できることになる.このようにいくつかの周波数を発生させることで,0.98GHz~6.6GHzと広い発振 周波数範囲を実現した.
製造にはシリコンのCMOSプロセス(0.18μm)を使った(図2).デジタル回路と集積しやすいことから,CMOS プロセスを選んだ.製造したVCOチップの性能を測定したところ,重要な性能指標である位相雑音(FoMT)は,-206dBc/Hzと低く,過去に論文 発表されているなかでは最高の値を得た.
なお今回の研究成果は,2006年11月13~15日に中国の杭州で開催された国際会議「アジア固体素子回路会議(2006 IEEE Asian Solid-State Circuits Conference:A-SSCC)」において「A 0.98 to 6.6GHz Tunable Wideband VCO in a 180 nm CMOS Technology for a Reconfigurable Radio Transceiver」のタイトルで発表されたとともに,同会議において実際にVCOを動かすデモンストレーションが実施され(図3),発表した学生は Student Paper Awardを受賞した.これを受けて2007年2月11~15日に米国サンフランシスコで開催予定の国際会議「国際固体素子回路会議(2007 IEEE International Solid-State Circuits Conference:ISSCC)」においてポスタ発表し,また表彰される予定である.
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