本学大学院理工学研究科の市村禎二郎教授と松下慶寿助手を中心とする研究グループは,微小な反応器を使って光化学反応の速度を数百倍に高める技術を開発した.
近年,大きさが数十μm~数百μmの微細な溝に化学物質を投入して化学反応を起こす研究が非常に活発になっている.この微細な反応器は「マイクロリアク ター」あるいは「マイクロチャネルリアクター」と呼ばれており,化学反応の効率が向上する,反応速度が高まる,化学反応を精密に制御できる,といった利点 を備える.
例えば固体の触媒を使う化学反応は,実際には触媒と試料の接触部分で起こる.反応器の寸法が小さいと相対的な反応器の表面積が大きくなり,単位体積あたりの接触面積が増える.このため,マイクロリアクターでは化学反応が効率的に進む.
光を使った化学反応の中で,光を吸収することで触媒作用を示す物質(「光触媒」)を使う研究が活発に行われている.光触媒を使うと,通常の触媒では不可能 な低温(例えば室温)で化学反応を起こせるので,熱エネルギーを必要としない反応工程を構築できる.ただしビーカーやフラスコなどの反応容器に光触媒(粉 末)を投入する化学反応は,照射する光が触媒全体に行き渡らず反応があまり進まない,副生成物が反応容器内に貯まって目的の反応を阻害するといった問題を 抱えている.
そこで市村教授と松下助手を中心とする研究グループは,光触媒とマイクロリアクターを組み合わせる反応系を構築した.マイ クロリアクターの内壁に光触媒の薄膜を付着させ,光を外部から照射する反応系である.触媒全体に光をほぼ均一に照射できるので,反応効率が高まると期待で きる.マイクロリアクターと光触媒による反応系を試作して化学反応を起こしたところ,ビーカーやフラスコなどを使う反応系に比べ,反応収率(目的の生成物 を収穫できた割合)で8~10倍,収量当たりの所要光エネルギーで250分の1,反応時間で100分の1といった良好な結果を得ることができた.また光学 異性体の一方だけを多く合成することにも成功した.
具体的には,石英またはパイレックス基板に溝を掘った微細な流路をマイクロリアクターとし, 光触媒には,標準的な材料である酸化チタン(TiO2)を使用した.酸化チタンはゾルゲル法で石英基板に塗布し,高温焼成によって流路の内壁に付着させ た.酸化チタンの厚さは0.1μmほどである.溝の幅は500μm,溝の深さは10μm~500μm,長さは50mm.試料はシリンジポンプによってマイ クロリアクターに流し込む.
基板には紫外線を透過する材料が選ばれている.酸化チタンは波長380nm以下の紫外線を吸収し,触媒として機能す る.紫外線の光源にはレーザーやランプなどを試した結果,発光中心波長365nmの発光ダイオード(LED)を選んだ.光の照射時間は流速によって制御し た.
なおマイクロリアクターは,反応に使える化学物質の絶対量が非常に少ない.工業的にはこれは問題となる.このため数多くのマイクロリアクターを並行して動かし,絶対量を増やす手法(ナンバリングアップ)が考えられている.
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図1 光触媒を付着させたマイクロリアクター | 図2 紫外線の光源である発光ダイオード(LED)アレイ.最大出力100mWのLEDを7個ならべた. |
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